獣のような生と死に対する執着と執念にゾゾっ! 映画『哀しき獣』より韓国映画『哀しき獣』は、人間の本質を描いた傑作クライムサスペンスだ。登場人物の生と死に対する執着と執念にゾゾッ!とさせられる。

物語は単純だ。けれどもキチンと人間を描いているため、見応えがある。そういう演出をした監督の手腕も素晴らしいし、またキャラクターの深層を表現しえた俳優の技量に寄る部分が大きい。

北朝鮮とロシアに接する中国領にある延辺朝鮮族自治州の延吉。タクシー運転手のグナム(ハ・ジョンウ)の妻は、韓国に出稼ぎに出たまま音信不通。その就労ビザを取得するため、グナムは6万元の借金を負っていたが返すアテはない。そんなとき、表向きは犬商人、裏の顔は殺人請負業の男ミョン(キム・ユンソク)から、韓国での仕事(=殺人)をもちかけられる。

300ys-sub1朝鮮族とは韓国系中国人のこと。メガホンを執ったナ・ホンジン監督が、前作『チェイサー』のリサーチで得た情報を基に脚本を書いている。『チェイサー』では善悪を演じた俳優、キム・ユンソクとハ・ジョンウを再びキャスティング。善悪のポジションを入れ替えて、2人(プラスα)は追いつ追われつ攻防を繰り広げていく。

延吉に居ても、グナムは借金を返せない。黄海を渡り、韓国に行けば、妻に会えるかもしれないし、仕事を遂行すれば借金も帳消しになる。彼の決断は早かった。しかし慣れぬ土地での殺人という負荷は、思い通りに進むはずもなく。警察が頼りないのもポイントで、いつしか大騒動になっていく。

「トラウマ度98パーセント」「壮絶アクションの連続」といった口コミに嘘はない。孤高のグナムは、3者に追い回される。この追われる感がハンパない。追われたら、まず逃げる。しかしグナムは自分が「ハメられた」と知るや、逃げているだけではダメだと真実を知るために奮闘する。

口封じに殺そうとするもの、生き延びるために闘いに臨むもの。乱闘シーンでの刃と肉の音がすさまじいし、彼らの生と死に対する執着と執念にゾゾッ!とさせられる。その姿は知性のある生き物ではなく、獣そのものだ。追い詰められし人間はなりふりかまわないし、最後まで諦めたらいけない、のだと。その姿を観ているうちに胸が苦しくなる。それでいて、スクリーンからは目が離せない。韓国版『エッセンシャル・キリング』が誕生した。


原題=??(黄海)
英題=THE YELLOW SEA
日本公開=2012年1月7日
配給=クロックワークス
公式サイト=http://www.kanashiki-kemono.com/
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